「終活」という言葉を聞くと、どこかネガティブで、死への準備という暗いイメージがあった。しかし、内館牧子さんの『すぐ死ぬんだから』を読み、その考えは大きく変わった。「どう死ぬか」を考えることは、とりもなおさず、「残りの人生をどう生きるか」を考えることなのだと気づかされたからだ。
主人公のハナは、夫の突然の死をきっかけに、自らの「死に様」について真剣に考え始める。それは、誰にも迷惑をかけず、美しく、潔く最期を迎えたいという彼女なりの美学に基づいている。葬儀の形式や遺産の整理といった事務的なことだけでなく、「最期の瞬間まで自分らしくありたい」という強い意志がそこにはあった。
特に印象的だったのは、ハナが古い下着を処分する場面だ。いつ誰に見られても恥ずかしくないように、という彼女のプライドは、死を目前にした人間の覚悟そのものだ。その姿は滑稽どころか、むしろ神々しくさえ感じられた。自分の人生の幕引きを、他人に委ねるのではなく、自らの手でプロデュースしようとするその生き方は、これからどう生きるかという指針を与えてくれる。
この本は、私たちに問いかける。「あなたはどう生きて、どう死にたいですか?」と。それは、高齢者だけの問題ではない。明日、何が起こるかわからない私たち全員に向けられた問いだ。私も、ハナさんのように最期の瞬間まで自分の人生に責任とプライドを持てるよう、今日一日を大切に、そして自分らしく生きていこうと、強く心に決めた。
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