高木敏子さんの『ガラスのうさぎ』は、戦争の悲惨さを描き、読む者に深い悲しみを与える物語だ。しかし、この物語が長く読み継がれている理由は、ただ悲しいだけではないからだと私は思う。それは、すべてを失った絶望の闇の中に、それでも消えることのない、人間の「生きる力」と「優しさ」という光を描いているからだ。
主人公の敏子は、次々と家族を失い、たった一人になってしまう。その孤独と絶望は、想像を絶するものだ。しかし、彼女は生き抜くことを諦めない。それは、亡くなった家族の分まで生きなければならないという、悲壮な決意に支えられていた。彼女の小さな身体に宿る、その強靭な生命力に、私は心を打たれた。
そして、彼女の周りには、いつも誰かの優しさがあった。父の死を知らせ、共に涙を流してくれた名も知らぬ兵隊さん。冷たい態度をとる人もいる中で、そっと白米のおにぎりを握ってくれた疎開先のおばさん。彼らのささやかな親切は、敏子の凍てついた心を少しずつ溶かし、生きる希望をつなぎとめる、命綱となったはずだ。
この物語は、戦争が人の命や心を破壊する一方で、極限状況だからこそ立ち現れる、人間の気高さや温かさをも描き出している。たとえ世界が闇に包まれても、人を思いやる心さえ失わなければ、人は生きていける。敏子を支えた人々の優しさは、平和な時代に生きる私たちにとっても、忘れてはならない大切な心の在り方を示している。絶望の淵から立ち上がり、前を向いて歩き始めた敏子の姿に、私は人間の持つ無限の可能性と、揺るぎない希望を見た。
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